住宅ローン審査について
今回は、住宅ローン審査に対する考え方の一例をご紹介いたします。
ローン審査では、収入面が基本の要素となりますが、その他にも、申込者や申込の内容に関する背景も重要な判断材料となり得ます。
審査結果は、申込内容に対する総合判断とされていますので、申込内容を全体的に整える必要があります。
そこで、全体を構成する各要素について、少し掘り下げて考察してみたいと思います。
個人信用情報
(クレジットヒストリー)
審査の基礎となるのが、信用情報です。信用情報は、住宅ローンだけでなく、あらゆる融資やクレジット審査の基本要素とされています。
信用情報にネガティブな記録があると、審査が難航したり、審査落ちの原因にもなります。
審査に悪影響を及ぼす代表的な事例としては、Ⓐ異動情報 > Ⓑ延滞情報 > ©複数照会記録といったところです。
Ⓐ異動情報は、過去に発生した代位弁済等の記録であり、この記録があると借入が極めて困難になります。
Ⓑ延滞情報は、直近の記録ほど重く、過去の記録であっても回数が重なると非常にネガティブな要素となり得ます。
©照会記録は、審査の際に金融機関が情報にアクセスした際の記録ですが、複数回の記録が短期間に集中する場合は、非常にネガティブな要素となり得ます。
法律上の破産や債務整理等を行っている場合は、住宅ローンの借入はほぼ不可能になると言われています。
信用情報上の破産情報は、10年を経過すると消除されますが、官報の記録は、半永久的に残るとされています。
ローン審査では、官報情報の確認も行われるため、永続的に悪影響を受ける可能性があります。
しかし、必ずしも不可能となる訳では無いようです。原因となる金融事故から相当の時間が経過していてかつ、現在の経済状況が極めて好転している場合など、相当のリスク懸念が払拭されると判断できる場合には、審査の承認が得られるケースもあるようです。
逆に、金融取引の記録が全く存在しない場合も、大きなマイナス要因となるようです。
20代前半など、社会人生活が間もない間は別として、30代~40代以降で金融情報が全く存在しない場合には、逆に審査上の欠点となる事もあるようです。
そのような場合は、事前にクレジットカード等を取得した後に住宅ローン審査を申し込む事である程度の改善に繋がる可能性があります。
また、携帯やスマホ等を割賦購入している場合にも、注意が必要です。
割賦代金は、毎月の利用料金と合わせて支払うため、うっかり利用料金の支払い忘れが生じた際に割賦代金の支払い遅延が延滞情報として情報機関に記録される事があります。
個人信用情報は、主にCIC、JICC、JBA(KSC)の3カ所に記録されています。
情報の保有期間は、契約期間中及び契約終了後の5年以内、照会記録は6カ月以内とされています。
また、JBA(KSC)のみ官報情報も保有しますので、官報に掲載された破産等の情報については10年間、記録が残り続けます。
異動など金融事故の記録については、その原因が解消され、契約終了の事実が記録された時から5年を経過すると消除されます。
異動とは、主債務の延滞等により、債務保証会社(保証人)が債務を債権者に弁済する事で債権が保証会社に移転した状態を言います。
主債務者(借入者)は、その後、保証会社に債務を弁済する事となりますが、その債務が完済されて、契約が終了した時から5年を経過すると異動情報が消除されます。
つまり、たとえ僅かでも残債務があり、契約が終了していない間は、いつまでも情報が残り続けるので注意が必要です。
過去の信用情報等に関して不安がある場合には、事前に開示請求を行い、信用情報を確認しておくと良いでしょう。
既存借入
(借入額/利率/償還期間)
既存借入は、現在進行中の金融取引であり、審査上の特に重要な要素となります。
ローンの審査の根本に返済比率という考え方がありますが、既存借入の返済額も、この返済比率に含めた審査となります。
また、既存借入の返済額は、実際の返済額では無く、審査金利に置き直した返済額で計算します。
つまり、既存借入の残債額を審査金利で引き直した場合の年間返済額と新たに申し込むローンの年間返済額の合計額が、年収に占める割合を返済比率とします。
そのため、他の借入額が大きい場合は、思いのほか借入額が伸びない、又は、借入自体が困難となるケースもあります。
しかし、既存借入(残債務)については、必ず申込内容に含める必要があります。
仮に含めずに審査の申込をしたとしても、信用情報の照会により、全て判明するため、未申告のままで申し込んだとしても、申込不備等で差し戻し又は、そのまま審査落ちしてしまうケースもあります。
一度、否決(審査落ち)の解答が出てしまうと、再審査のハードルも上がるため、既存借入については、慎重に取り扱うことが賢明です。
金融庁の許可を受けて営業する金融事業者からの借入は、生命保険の「契約者貸付」を除いて、ほぼ全て信用情報による判明すると考えてよいでしょう。
また、クレジットカードの所持や、一括支払いでの使用は借入とは見なされないため、返済比率には含みませんが、カードの保有枚数が極端に多い場合や現金のキャッシング枠が付帯しているカードである場合には、実際に借り入れてなくても借入額として返済比率に含むケースもありますので、注意が必要です。
保有カードの枚数や、キャッシング枠の取り扱いについては、各金融機関の規定により異なるため、事前に確認するとよいでしょう。
審査申込の際は、それら既存借入のエビデンスとして、償還予定表等の添付が必要になります。
健康状態
(既往症/通院歴/投薬状況)
ローンの条件となる団体信用生命保険に関する重要な部分です。持病がある場合は、特に注意が必要です。
直近の通院歴や投薬状況、進行状況等により、保険加入に大きく影響を及ぼす場合があります。
銀行ローンでは、基本的に保険加入が融資の条件の一つとなりますので、健康状態が融資審査を左右すると言っても過言ではありません。
団信保険のコーナーでも触れましたが、主債務者の推定相続人を連帯保証人とする事で保険非加入でも住宅ローンが組める場合があります。
その場合は、主債務者が弁済不能となった場合には、その保証人が債務を引き継ぐ事となります。
また、住宅金融支援機構のフラット35は、もともと保険加入が任意となりますので、非加入でも問題なく融資が受けられる事に加え、保証人の付帯義務もありません。
しかし、保険非加入の場合では、主債務者が弁済不能となったとき、その相続人は、相続放棄しない限り、債務を引き継ぐこととなりますので、できる限り保険には加入しておきたいものです。
加入条件の範囲としては、加入できない疾病や医師の診断書を要する疾病など、内容は多岐に及びます。
自律神経失調症やうつ病など認知系の症例は、特に注意が必要です。
日常生活的には、問題が無くても、過労や不眠等などで心療内科や精神科などを受診している場合は、それだけで加入できないケースも多々あります。
また、アルコール依存症なども加入不可となる可能性があります。
認知系の症例は、程度の判断が難しいため、一律に加入不可としている保険会社も多いため、なるべく若く健康な間に申し込むのが良いでしょう。
団信保険は、多額の債務を担保する重要な機能ですから、慎重に考えるべき部分であると言えます。
収 入
収入形態
給与所得の場合は、源泉徴収票の税込年収額が審査対象となります。
自営業の場合は、売上額ではなく、所得額が対象となります。
借入限度額
借入限度額は、返済比率が基本となります。
返済比率とは、年間の返済額が年収に占める割合です。
その割合が、一定範囲内に収まっている事が審査の前提条件となります。
多くの場合で、年収400万円を境に返済比率が大きく異なります。
400万円以上は35%、400万円以下は30%という様に金融機関ごとに決められています。
年収700万円以上になると40%程度まで許容される場合もあります。
返済比率の割合が高いほど借入限度額が伸びると思われますが、返済比率を計算する際の審査金利が高ければ、逆に借入限度額が低下します。
審査金利とは、実際の借入金利ではなく、審査に使用する金利であり、実際の利率よりも高率に設定されています。
その審査金利で算定した場合の年間の返済額が年収に占める割合が、審査上の返済比率となります。
既存借入についても、前述のとおり、審査金利に置き直して算出した年間返済額を加算する必要があります。
ローンの申込金額に対する審査金利での年間返済額+審査金利に置き直した既存借入額に対する年間返済額の合計金額が年収に占める割合が、年収に規定される返済比率内に収まっていれば、基本的なラインは満たしていると考えられます。
審査金利は、金融機関により異なりますが、概ね3%~4%程度に設定されています。
しかし、住宅金融支援機構のフラット35は、実際の借入金利=審査金利となりますので、銀行ローンに比べて利率は、3倍以上となる場合もありますが、借入限度額は、1.3倍程度、伸びる傾向にあります。
返済比率には、賞与の収入も加算できますが、継続性のない一時的な収入は、除外されます。
また、勤続年数が1年未満の場合には、給与の平均額を12カ月で割り戻した推定年収を対象に返済比率を求めます。
結果として、勤務初月の給与が1カ月分に満たない場合は、勤続1年以上の場合に比べ、借入限度額が減少することとなります。
返済比率につきましては、「借入限度額の計算」でも、詳しく紹介しています。
年 齢
長期ローンを組む際は、年齢が若い方が審査に有利となり、将来的な負担も少なくなります。
あまり若すぎる場合は、年収や安定性の観点から審査も厳しくなりますが、35年ローンを前提とする場合では、概ね40歳位までが適齢期とされています。
借入年数や金額にもよりますが、40歳以降で借入する場合は、定年時の残債額が1,000万円以上残る場合は、審査の難易度も高くなる傾向にあります。
50代に入ると更に審査が厳しくなり、定年に近づくほど難易度が増します。
しかし、高齢にあっても、自己資金の割合が多い場合や十分な資力を有する資産背景が見て取れる場合は、年齢的な懸念を払拭する場合もあります。
ローン審査では、基本的に自己資金の割合が多いほど懸念を払拭する効果がありますが、信用情報と団信保険については、自己資金で払拭する事はできません。
一般的な金融機関では、申込年齢70歳まで、完済時年齢80歳までと定めている事が多く、35年以上のローンを組む為には、45歳迄に申込む必要があります。
属 性
就業・雇用形態
銀行ローンと住宅金融支援機構のフラット35では、雇用形態に対する取扱い基準が少し異なります。平たく言えば、銀行ローンよりも、フラット35の方が属性に対する考え方が寛容です。
銀行ローンでは、主債務者は正社員が基本となり、契約社員でも可能な場合がありますが、持続性や安定性を示すエビデンスが必要となります。
また、自己資金が多い場合は、属性に対する懸念を払拭する要素となり得ます。
収入合算者については、基本的にパート勤務でも可能とされる場合が多く、雇用契約書や在籍証明書、給与明細など、エビデンスの確度が高いほど効果も上がります。
銀行ローンでは、主債務者の属性を重要視しますが、フラット35では、パート勤務であっても、主債務者となり得ます。
自営業者や法人代表者の場合は、確定申告書又は、法人決算書の3期分程度の推移が審査の対象となります。
直近が赤字決算の場合は、審査の難易度も高くなります。
自営業者の場合は、経営状態が極めて優良な場合を除き、通常10%∼30%程度の自己資金を求めらる事が多くなります。
会社役員の場合は、役員報酬に加えて、会社の財務資料も審査対象となる場合があります。
給与を手渡しで受けている場合は、請求書や領収書などのエビデンス資料が必要になります。
勤務年数
一般的に3年程度の勤続を必要としますが、内容により、1年未満でも取り扱いが可能です。
属性やエビデンスがしっかりとしていれば、3カ月程度の勤続でも審査が可能となる場合もありますが、割り戻し計算による推定年収が、通常の年収よりも少なくなるため、借入限度額が大幅に減少します。
月収35万円、年収420万円、勤続3カ月、月半ばから出社した場合の例では、15+35+35÷3×12=339となり、339万円が返済比率の対象となります。
正規の年収420万円であれば返済比率は35%ですが、割り戻し推定年収339万円の返済比率が30%となる場合、正規の年収に比べて、借入額が約3割近くも減少することになります。
勤務年数の基準や返済比率の区分、審査金利等は、金融機関により異なりますので、状況に合わせて検討する事が大切です。
勤務先規模
会社の規模等については、国土交通省のデータベース、帝国データバンク、自社HPの会社概要などが審査の参考とされています。
公表データで確認できない場合は、個別に会社概要などエビデンスが求められる場合もあります。
創立年や従業員数も規模を判断する為の指標となります。
資 格
国家資格など資格に基づいて就業している場合は、その資格証の提示が必要となります。
家族構成
(単身世帯/家族世帯)
単 身
単身世帯は、扶養親族がなく家計の負担が少ないと考えられますが、家族世帯に比べ安定性を欠くと考えられる事もあります。そのため、単身者の場合は、属性を重要視する傾向にあります。
家族世帯
家族世帯は、安定性が高いと評価されますが、年収に対して扶養人数が多い場合には、年収額と借入額のバランスが重視されます。
家計的に見て、ローン返済しながらの生活に無理があると思われる場合には、返済比率以内であっても申込額に届かず、減額となる場合もあります。
購入動機
住宅ローンは、使途が住宅購入に限定される非常に低率な融資であるため、建前上としても明確な必要性が重要となります。
個人融資の中では、極めて低利率かつ長期返済が可能となるのが住宅ローンの特徴ですが、その根底には、憲法に明示される「国民の健康で文化的な生活を営む権利」があると考えられいるためです。
動機としては、持家希望や家族構成の変化(結婚)などになりますが、動機に沿った背景も審査における総合判断において重要な要素となり得ます。
連帯保証・連帯債務
夫婦の一方の年収だけでは希望額に届かない場合には、夫婦の収入合算により申し込む事が可能です。
その場合は、合算者が主債務者の連帯保証人になる方法と、夫婦それぞれが個別の債務者となる連帯債務に分かれます。
連帯保証人は、主債務者が返済を遅延したり、返済不能となった時に主債務者に代って返済する義務があります。
正確には、主債務者と同等の立場で返済義務を負っているのですが、実務上は、主債務者の返済が遅延した以降に請求される事が多いようです。
連帯債務も、どちらか一方が返済不能となれば、もう一方が二人分のローンを返済する義務があります。
よく似ていますが、連帯保証の場合は、主債務者のみが団信保険に加入し、住宅ローン控除を受ける事ができます。
これに対して、連帯債務は、双方とも団信保険に加入し、双方とも住宅ローン控除を受ける事が可能です。
連帯保証の場合は、主債務者に万一の事があった場合、債務全額に対して団信保険の適用を受けます。
連帯債務の場合は、一方の主債務者に万が一の事があった場合、その主債務者の借入分についてのみ団信保険の適用を受けます。
給振口座
給与振込を住宅ローン借入の金融機関の口座に変更する事で、僅かながら借入利率が下がる場合があります。
他にも、クレジットカードの申込や公共料金の引落などにより、利率が下がる事がありますので、申込時に確認すると良いでしょう。
あとがき
審査の一通りのポイントを簡単に紹介したしました。
ご紹介できていない部分もあるかと思いますが、ご参考にいただければ幸いです。
住宅ローン審査は、信用情報という土台の上に収入や属性など様々な要素を考慮した総合判断として結果に表れます。
多少のマイナスがあっても、他に補える要素があれば体裁を整える事も可能です。
しかし、信用情報と団信保険に関しては、他の要素で補えないので注意が必要です。
良好な住宅ローンを組む秘訣は、普段から信用情報に傷が付かない様に注意する事と、なるべく若くて健康なうちに申込を行うことと思います。
将来的に住宅ローンの利用を考えている方は、なるべく早めにスタートする方が良いかと思われます。
長くなりましたが、最後までご覧頂きまして、有難うございました。
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